2014年7月30日

[2014年7月30日] 第11回 Satyagraha

第11回 インド映画研究会
  • 日時: 2014年7月30日(水)16:00~20:00
  • 会場: 京都大学 総合研究2号館4階 415教室
  • 報告者: 溜 和敏(日本学術振興会特別研究員PD)
  • 題材: Satyagraha(2013年)

【議論の概要】

 本作は、2011年から12年にかけてのAnna HazareによるJan Lokpal運動、ならびにその運動の流れを汲むAam Aadmi Partyの結党(2012年)に向けた動きと、2003年のSatyendra Dubey事件を下敷きとした作品である(映画の内容については参考リンクを参照されたい)。監督Prakash Jhaは、Gangaajal(2003年)やRaajneeti(2010年)など多数の社会派作品で知られ、特に政治に関する映画を多く撮っている。Jhaは政界進出を試みており、連邦下院議会Lok Sabha選挙に、2004年(無所属候補として)、2009年(Lok Janshakti Party)、2014年(JD-U)にビハール州のWest Champaran選挙区から立候補し、敗れている。
 本作への参加者の評価はおおむね芳しくなかった。報告者は、中途半端に実際の出来事に基づきながらもオリジナルの物語として再構成されているため、登場人物やストーリー、そして映画全体が説得力を欠き、陳腐化してしまっていると論じた。政治に関する表象があまりにも古臭く、そのことに驚愕したという感想も出席者からは聞かれた。ストーリー展開の単調さについても指摘された。
 今回の研究会では、映画としての評価よりも、現実社会との関係についての議論が主に行われた。以前に本研究会で取り上げられたRang De Basanti(2006年)や本作などが、市民による社会運動や政治への意識に変化を及ぼしたという仮説である。たとえばAam Aadmi Partyは、公式ウェブサイト上においてArvind Kejriwal党首による本作についてのコメントを発表するなど、本作を利用している。こうした映画から社会への影響を証明することが不可能であるとしても、どうすれば論じることができるのかについて意見が交わされた。具体的には、アンケート調査による方法や、映画の商業的成果から影響を推論する方法が挙げられた。本作が及ぼした影響についてブログを分析して書かれた修士論文(Meghana Dilip, Rang De Basanti: Consumption, Citizenship and the Public Sphere, Master Theses, University of Massachusetts, 2008)の議論も紹介された。
 また本作で度々登場する「システム」(既存の政治・社会体制といった意味合い)という概念についても議論された。それを外から変えるべきか、内側に入って変えるべきかという観点はたびたびインド映画の主題となっており、本作は明確に後者のスタンスを表明している。そうした意識の市民への広がりが、2013年12月のデリー首都圏議会選挙で躍進を果たしたAam Aadmi Partyへの支持の広がりを理解するための助けとなるのではないか、と報告者は指摘した。また、デリーでのその後のAam Aadmi Party政権の挫折が、「システム」を破壊するアプローチへの支持を損なわせ、「システム」に対して異なるアプローチを採用する勢力への支持の高まりをもたらした可能性も論じられた。

(文責:溜 和敏)

※ 題材映画に関する参考リンク
(2014年7月3日作成、31日更新)